JTBグループでは、パラスポーツの発展とともに、地域を元気にするアスリートを応援していきます。
今回は、“2020年の主役”になることを目指すパラカヌーの加藤隆典選手に、アスリートとしての地域の環境と魅力を語っていただきました。

東京2020大会は傍観者でなく主役でありたい
 もともと自然の中で楽しむアウトドアスポーツが好きで、サーフィンやスノーボードをやっていました。スノーボード中の事故で障がいを負って、それまでの仕事や趣味がすべてできなくなりましたが、再びスポーツをすることが目標であり復帰するモチベーションのひとつでした。リハビリの末、元通りとはいかないまでも、サーフィンやチェアスキーができるようになりましたが、それが当たり前になると物足りなさを感じるようになって。
 そんな折、2020年のパラリンピックが東京に決まり、次の目標はこれだと! 母国開催の盛り上がりのなか、傍観者ではなく自分も主役のひとりでありたいと思ったんです。それで参加したパラリンピック選手発掘プログラムで、パラカヌーのブースを見つけたんです。

写真撮影:Norihiko Okimura

 パラカヌーはパラスポーツには珍しいアウトドアをフィールドとした競技でしたし、以前サーフカヤック(カヌーを使用したサーフィン)をやりたくて参加した障がい者向けのカヌー教室「パラマウントチャレンジカヌー」でお世話になった日本障害者カヌー協会の吉田会長と会場で偶然再会し、リオ2016パラリンピック当時からお誘いをうけていたこともあってパラカヌーに決めました。そこからはあっという間でしたね。実質4年もない限られた時間で、初心者からパラリンピックを目指すわけですから、考えられることはすべて即実行してきました。

体格で勝る外国人選手と渡り合う秘策
 パラカヌーは、流れのない静水で直線200mのタイムを競うスプリントです。左右交互に漕ぐカヤックと片側で漕ぐヴァーの2種目があります。トップクラスになると1分に満たない時間にすべてを集約して出し切る。そんなレース展開が面白いですね。使用する艇は直進性を重視した細長の形状で、初心者はバランスを保つのも困難ですが、乗ってしまえば健常者も障がい者も同じ目線で楽しめるのもこの競技の好きなところです。
 カヌーは実際にやってみると自然を利用して推進力を生むサーフィンやチェアスキーと違い、思った以上にパワー競技でした。「漕ぐ」というイメージが強いと思いますが、パドルでしっかり水をつかみ、そこを支点に全身を使って艇をおし進めるといった感じです。得意のアウトドアと思って選んだら、自分が苦手としていたパワーが一番重要だった(笑)。戦術やテクニックの要素が少ないシンプルな競技ほどフィジカルの強さが求められます。

 去年初めて日本代表として国際大会を経験させてもらいましたが、外国人選手との体格の違いを実感しましたね。よく聞く話ですが、とにかくデカい!(笑)。同じようにトレーニングをしていても、筋肉のつき方が違いますね。
 でもデカければいいというものでもないと思うんです。ひと昔前であれば陸上の短距離やリレーでも、アフリカ系の選手には到底かなわないほど差がありましたが、最近は日本人も上位に食い込めるようになりましたよね。それは競技特性に合った筋肉を効率的に発達させる科学的なトレーニングと、その力を余すことなく発揮させる工夫の成果だと思うんです。だから体格的に劣る日本人でもチャンスはあると思っています。

写真撮影:Norihiko Okimura

支援の輪を次世代に残す〝レガシー〟に
 今はアスリート雇用という形で競技に専念させてもらっています。ですが艇の運搬や転覆した時の救助などを毎日サポートしてもらえる環境は、なかなかありません。私自身、苦慮していたところ、日本モーターボート選手会からパラカヌーを応援したいとのお話しをいただき、地元碧南市にある施設(水上スポーツセンター)で練習させてもらえることになりました。職員一丸となって補助してくれて、救助艇も常時待機しているので、安心して練習できて本当に助かっています。
 それ以外にも、東京2020大会の開催をきっかけに興味を持つ人が増えてきて、地元の理学療法士の方が体のケアを手伝ってくれたりと、協力や支援の輪が着実に広がっています。当たり前ですが、選手ひとりで全部をこなすことはできないので、競技をする上ではとても心強いです。吉田会長にもよく言われていますが、パラカヌーはまだ競技としては歴史が浅く、環境がつくられていないところが多いので、お前たちが先駆者として切り開いていけと。なのでこの環境を後に続く選手へ、〝レガシー〟として残すことができればいいですね。

練習場自体が珍しい観光スポット!?
 この施設は、花しょうぶで有名な油ヶ淵公園に隣接していて、全国でも珍しいボートレーサーの練習場です。季節になると花を見に来た観光客やボートレースファンでにぎわいます。それにラジコンボートの世界選手権やマリンフェスタなど、環境を生かしたさまざまなイベントをやっています。観光のついでに応援に来ていただけるとうれしいですね。

写真撮影:Norihiko Okimura

 海外遠征ではいろいろな国に行く機会がありますが、特に印象深いのはアジア選手権で行ったウズベキスタンです。旅行先として選ばれることは多くないと思いますが、滞在したサマルカンドは街自体が世界遺産に認定された歴史ある都で、サマルカンドブルーといわれるタイルに彩られた建物が並び、さすが青の都と称される美しさでした。アジア圏ですが旧ソ連の文化も残り、先進国と発展途上国の両面を持つ面白い国だなと感じました。バリアフリーに関しては少々難がありますが、現地の人達はとても人懐っこく優しいので、困ったら積極的に助けてくれます。

写真撮影:Norihiko Okimura

 プライベートでも海外のビーチリゾートに毎年行ってサーフィンなどを楽しんでいます。ハワイのオアフ島では街中にアウトリガーカヌーがあって、日本にはないカヌーの歴史にふれたり、バリやプーケットでは発展途上国ならではのハングリーさを感じたりと、海外に出ると毎回たくさんの刺激を受けるのでいいですね。
今後もできるだけ多くの国に行って、多くの文化に触れたいと思っています。

写真撮影:Norihiko Okimura

 これから2020年にかけてパラリンピック出場枠の争いが本格化します。9月には日本選手権がありますので、少しでも興味を持たれたら、ぜひ会場に来て盛り上げていただきたいと思います。私自身も全力で楽しみますし、みなさんにも楽しんでもらえるようしっかり目標を追い続けます!

写真撮影:Norihiko Okimura

PROFILE
加藤 隆典 (かとう たかのり)

1979年2月8日 愛知県碧南市生まれ

スノーボード中にジャンプの着地に失敗。背骨を圧迫骨折、両足が付け根から動かない「下肢機能全廃」の障害を負う。2016年末、障がいを持つ前の趣味であったサーフィンで培ったバランスを生かしパラカヌーを始める。始めてから1年半で日本代表選手に選ばれ、2018年のアジア選手権ではカヤック6位、ヴァー2位の成績を上げる。練習環境は自分で開拓し、現在は地元碧南市で日本モーターボート選手会の練習場でトレーニングを行っている。
愛知県碧南市在住、トヨタすまいるライフ㈱所属。